SXとは?企業が取り組む必要性とメリット、DXやGXとの違い
経済危機や環境問題をはじめとした社会情勢への不安が増加する中、サステナビリティへの関心は年々高まっています。近年、多くの企業がSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に注目しています。
本記事では、SXとは何か、その重要性、企業が取り組む必要性とメリット、さらにはDXやGXとの違いについて解説します。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、持続可能性(Sustainability)と変換(Transformation)を組み合わせた概念です。SXは、2020年8月に経済産業省の経済産業政策局が開催した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の「中間取りまとめ」で提言されました。提言者の伊藤邦雄氏は、レポートの中で次のように述べています。
“「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。
社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化とは、企業が社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味する。”
伊藤レポート3.0(SX 版伊藤レポート)2022年8月より
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_sx/pdf/20220830_1.pdf
経済危機、不安定な政治情勢、自然災害、テクノロジーの進化など、社会情勢の急激な変化により、企業は長期にわたり企業価値を向上させることが難しくなっています。このような状況下で、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が注目を集めています。SXは、企業のサスティナビリティ(企業の稼ぐ力の持続性)と社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿や持続可能性)を両立し、経営変革することを意味します。
SXの注目が高まっている背景
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に対する注目は、環境問題や社会課題の深刻化に起因しています。社会状況の急速な変動に対応するため、企業はその経営戦略の見直しを迫られています。また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、ESG(環境、社会、ガバナンス)の重要性に対する認識はさらに高まりました。投資家や消費者は、ESG指標を用いて企業の社会的責任を評価し、経営の透明性と責任性を求めています。その結果、企業は中長期的な戦略において、自社と社会の持続可能性をバランス良く実現しながら、企業価値を創出する必要があります。
企業がSXに取り組む必要性とメリット
投資家や消費者が企業の社会的責任を強く求める現状において、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の取り組みは欠かせません。企業が自社の利益追求だけでなく、社会問題に対しても積極的な姿勢を見せることで、企業イメージの向上やブランド力の強化が期待できます。サステナビリティを中心に据えたSXを展開することで、投資家や消費者からの信頼を勝ち取ることは、非常に大きなメリットと言えるでしょう。
SXの推進と実現に必要なもの
2021年5月、経済産業省は「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」を設立しました。SX研究会の報告書は、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」として公表されました。報告書の中で、SXを実現するための具体的な取り組みとして以下の3点が整理されています。
1. 社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化
社会への長期的かつ持続的な価値提供に向けて判断軸となる価値観を明確化し、自社の事業活動を通じて解決する重要課題を特定する。
2. 目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築
企業には、目指す姿に基づき具体的にどのように価値創造を実現していくか、企業全体の長期価値創造の在り方を示す長期戦略を構築するとともに、その具体化に向けた短・中・長期別の戦略を組み立てる。
3. 長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ
長期的かつ持続的な企業価値向上を実効的に推進するためには、KPIの設定とガバナンス体制の整備が有効です。これらを通じて、企業には、目指す姿とそれに基づく戦略を着実に構築・実行するとともに、外部環境の変化等に応じて適切な見直しを図ることが求められます。
さらには、投資家等との間で、長期的な企業価値の向上に資する対話・エンゲージメントを深めることにより、目指す姿、その達成に向けた戦略、ガバナンス体制などから成る価値創造ストーリーを不断に磨き上げていくことが重要です。伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)より一部抜粋
また、SXの推進にあたり「ダイナミック・ケイパビリティ」が注目されています。ダイナミック・ケイパビリティは「企業変革力」とも呼ばれ、不確実な環境下で企業が自らを改革し、適応する能力を指します。ダイナミック・ケイパビリティは、主に以下の3つに分類されます。
1.感知(Sensing)
自社の状況や外部環境を客観的に分析し、変革が求められる危機的な状況か否かを感知します。
2.補足(Seizing)
自社の資産、知識、技術を再編成し、競争力を獲得します。
3.変容(Transforming)
獲得した競争力を持続的に有効活用するために、組織全体を刷新します。
企業の持続的な成長には、ダイナミック・ケイパビリティを身につけ強化する必要があります。
経済産業省と東京証券取引所が創設したSX銘柄とは?
経済産業省と東京証券取引所が創設したSX銘柄(サステナビリティ・トランスフォーメーション銘柄)とは、2023年に創設された銘柄選定制度です。日本の株式市場が現在、全体として十分なグローバル評価を得ていない中、TOPIX500企業の4割以上がPBR(株価純資産倍率)1倍以下という課題に直面しています。
このような状況で、企業価値の向上にはSXの推進が不可欠とされています。SXに積極的に取り組む企業を明示することで、国内外の投資家に対して日本企業の再評価と市場への新たな期待を促す目的があります。
最初のSX銘柄の公表は2024年春に予定されていますが、選定プロセスの詳細は2023年8月時点では検討中となっています。
SX銘柄の公表にはいくつかの課題も指摘されています。政府が銘柄を選定することにより、今後の成長が期待できる企業よりも、既に知名度のある大企業に注目が集まる可能性があります。また、SX銘柄が必ずしも投資需要を喚起するわけではなく、株価にポジティブな影響を与えない可能性も考慮しなければいけません。
これらの課題を解決し、日本の投資市場を発展させるための慎重な取り組みが求められています。
SXを実践している企業の事例
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は、サステナビリティ基本方針や個別方針に基づき「社会・地球の持続可能な発展への貢献」に取り組んでいます。具体的には、生産工場でのCO2排出量を削減するための取り組みが進められています。その一環として、再生可能エネルギーや先進技術を積極的に活用し、2035年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げています。
トヨタのサステナビリティ https://global.toyota/jp/sustainability/
株式会社ユニクロ
ユニクロは、「PLANET」「SOCIETY」「PEOPLE」という3つの分野でサステナビリティに取り組んでいます。PLANETでは、全商品をリサイクル、リユースする「RE.UNIQLO」プロジェクトを推進しています。SOCIETYでは、難民キャンプなどへ衣料を届ける衣料支援活動を行っています。PEOPLEでは、あらゆる人が平等に生きられる世界を目指す「GENDERR」の活動を行っています。
ユニクロのサステナビリティ https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/
富士通株式会社
富士通は、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスを掲げ、サステナビリティに積極的に取り組んでいます。2023年には、SXの状況とDXがサステナビリティの実現にどのように寄与しているかに関する調査を行い、「グローバル・サステナビリティ・トランスフォーメーション調査レポート 2023」を発表しました。
富士通のサステナビリティ https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/
グローバル・サステナビリティ・トランスフォーメーション調査レポート 2023
https://www.fujitsu.com/jp/vision/insights/sustainability-transformation-survey-2023/
住友商事株式会社
住友商事は、経営理念と社会課題を踏まえた上で、「社会とともに持続的に成長するための6つのマテリアリティ(重要課題)」を掲げています。マテリアリティは、SDGsへの取り組み指針、地球環境との共生、地域と産業の発展への貢献、快適で心躍る暮らしの基盤づくり、多様なアクセスの構築、人材育成とダイバーシティの推進、ガバナンスの充実、の6つです。これらのマテリアリティを通じて、「健全な事業活動を通して豊かさと夢を実現する」という企業使命を果たし、企業の持続的な成長と社会課題の解決を同時に達成することを目指しています。
住友商事のサステナビリティ https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/sustainability/material-issues
SXとSDGsの関係性
SDGs(持続可能な開発目標)は、地球規模での緊急課題に対処するための国際的な指針です。SDGsには、17の目標、169の達成基準と232の指標が設定されており、2030年までの達成を目指しています。
一方で、SXはビジネスの側面から持続可能性を追求し、企業変革を推進する手法です。SDGsは社会的課題に焦点を当て、国際協力と集団的な取り組みが必要です。SXとSDGsは、目的や焦点が異なるものの、どちらも持続可能な社会作りに貢献する枠組みと言えます。企業活動と社会全体の持続可能性を高めるためには、両者の取り組みが不可欠です。
SXとDX(デジタル・トランスフォーメーション)の違い
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、デジタル技術を駆使して組織やビジネスモデルを刷新する手法です。DXを導入することで、業務効率の向上や競争力の強化が期待できます。
一方で、SXはDXにESG(環境、社会、ガバナンス)の要素を加え、持続可能な視点から企業の中長期的な変革を促します。SXの成功には、デジタルテクノロジーの導入が不可欠です。DXとSXを組み合わせることで、事業変革をより効果的に推進できます。
SXとGX(グリーン・トランスフォーメーション)の違い
GX(グリーン・トランスフォーメーション)は、カーボンニュートラルを目標に、社会や経済の持続可能な変革を促進する概念です。GXでは、化石燃料から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへ転換し、環境に配慮した経済成長と社会改革を目指しています。
一方で、SXは中長期的な戦略で、自社と社会の持続可能性を目指すことから、GXはSXの一部分として位置付けられ、より具体的でエコロジカルな取り組みを指すことが多いです。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に関するよくある質問
SXとは何ですか?
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、持続可能性(Sustainability)と変換(Transformation)を組み合わせた概念です。SXは、企業のサスティナビリティ(企業の稼ぐ力の持続性)と社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿や持続可能性)を両立すること、そのための企業経営の変革を指します。
企業がSXに取り組む必要性は何ですか?
経済危機、政治的不安定性、自然災害、テクノロジーの急速な進展など、多様かつ急激な社会環境の変化が進行中です。このような状況下で、企業が長期にわたり価値を維持・向上することは難しくなっています。サステナビリティに焦点を当てたSXを実施することで、企業は投資家や消費者からの信頼を高められる可能性があります。
SXとDXの違いは何ですか?
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、デジタル技術を駆使して、組織の運営やビジネスモデルを刷新する手法です。DXを導入することで、業務プロセスの効率化や企業の競争力が向上します。SXを実現する上で、デジタルテクノロジーの導入は不可欠です。両者の視点を組み合わせることで、より効果的な事業変革の推進が可能となります。